悩んでいるのは自分だけじゃない【鴻上尚史のほがらか人生相談】【2冊目】

鴻上尚史さんの本を読むのは、2冊目です。前回読んだ「孤独と不安のレッスン」に元気づけられたので、他の著書もと思い、手にとりました。

「人生相談」、重い響きです。 相談者は、自分の悩みをわざわざ文章におこして、きいてもらおうとしているのですから真剣です。 それについて、鴻上さんが 真剣かつ親身になって回答しています。

28人の相談が掲載されています。その回答が、そのまま読者の悩みの解決のヒントになることもあるでしょう。

ただ、それだけじゃありません。悩んでいるときは、自分だけが大変だと思いがちです。でも、この本を読むと「悩んでいるのは自分だけじゃない」ことを思い出させてくれます。

世の中のみんなが、多かれ少なかれ、悩みをかかえています。それでもなんとかしようと、みんないっしょうけんめい生きているんだということを教えてくれます。胸が熱くなる一冊です。

鴻上尚史さんの人生相談歴

鴻上さんは、演出家という職業のせいか、 俳優やスタッフの方々からさまざまな相談をうけるとのこと。公演にたずさわる人々がなんとかうまく立ちまわってくれないと、公演の幕は開きませんから、悩みを少しでも解消しようとします。 相談歴は40年。 その中で心がけていることがあるといいます。

回答は、いつも、「できるかどうか」を基準にしました。理想だけを語っても、どんなに勇気づけても、できないことはできないのです。

「がんばればいつかよくなる」「なんとかなるよ」などとテキトーに逃げず、具体的な考え方や行動をうながす回答は、そういった経験の蓄積があるからなのだと納得しました。

心に残ったお悩み3つ

たくさんの相談の中から、心に残ったものを3つ挙げてみます。

「うつの妹を、家族が世間体を気にして、病院に通わせようとしません」

うつの妹さんをもつ、お兄さんからの相談です。地方の農家の方です。
鴻上さんは、「世間体」について深く考察されています。日本の息苦しさの正体です。特に地方の田舎では、根深いものなのでしょう。
鴻上さんはこう回答します。

父親も祖父・祖母も、苦労を引き受けないまま死ぬのです。でも、あなたの人生は続きます。

相談者であるお兄さんに、妹さんの受診を強く勧めます。いくら世間体を気にしていても、祖父母・両親がなくなれば、実際問題、将来的にお兄さんがうつの妹さんの面倒をみることになるからです。そんな事態になるのを、鴻上さんはいちばん心配しています。

「『素直に』の日本語の使い方についてイギリス人の友人から聞かれて困った」

スポーツ選手のインタビューでの「素直にうれしいです」の「素直に」、よく耳にしますよね。外国人からすると、違和感があるようです。確かにあらためて聞かれると、何のために言っているのかわかりません。
「素直に」について、鴻上さんはこう回答します。

「世間」という公(おおやけ)が強い空間で、個人の感想を語ることを許してもらう言葉が「素直に」という表現なのです。

また「世間」がでてきました。たとえば、負けた選手への配慮、応援してくれた人への感謝、自分がこれから乗り越えるべき課題、それらを本来述べるべきだけど、「うれしい」と表現したい。そんなとき、「素直に」と前置きするのです。うーん、この短い「素直に」に、これだけの心の動きがあったのですね。

「他人に迷惑をかけられるたびに心底いらいらしてしまいます」

ここでいう「迷惑」とは、混んでいる電車の入り口に立ち出入りの邪魔になっている人、
歩道で広がって歩く人たち、スマホを見ながら歩く人のことです。わたしもこれらにいつもイライラするタイプなので、この相談は興味深いです。そして、鴻上さんの回答はというと、

何者でもない自分が唯一堂々と自己主張できるのが、「正義に反する人達」に対する通常のレベルでないイライラなのです。

アイタタタ、予想外の回答でした。このインターネット社会、ちょっとやそっとじゃ自分の価値が認められません。仕事にしても、趣味にしても、上には上がいることがわかる情報があふれているからです。

そんな状況でも、「正義の言葉」すなわち「電車の入り口に立つな」「スマホをみながら歩くな」は、誰からも否定されない言葉です。自己主張がこういうことでしかできなくなっているのです。 心のうちを見透かされているようで、ゾッとしました。

このイライラを解消するには、自分の趣味、興味、関心事にエネルギーを注ぎなさいとアドバイスしてくれています。

まとめ

鴻上さんが「ほがらか」な話しことばで、真剣に語りかけているので、言われたことが心にスーッとしみいってきます。

本を読みながら、相談者になりかわり悩んだり、回答者となってどう答えようか考えてみたりしました。読む人に、いくつもの人生の局面を味わわせてくれる、奥深い本でした。